ビール醸造に従事する女性たち

  • 2017/3/27

イタリアは、ワインの国というイメージがあります。
しかし、古代ローマ時代からビールも生産されており、とくに中世の時代には修道院で盛んに作られていました。

ここ数年、イタリアでのビールの人気は高まって、サッカーの試合を見ながら友達とわいわい食べるピッツァのお供はビール、というのが定番になってきています。それと同時に、小規模の企業が生産するクラフトビールの生産が急増しました。

各地で行われるこうしたクラフトビールの催しには、それを生産する職人たちも登場します。かつては、こうした職人たちは入れ墨を入れひげを蓄えた荒々しい男性像が典型的でした。
ところが近年、ビール醸造に従事する女性が非常に増えてきました。

イタリア女性の60パーセントが、ビールを飲む、と答えています。この数字は、30年のあいだに2倍になったことになりますが、女性たちの年間ビール飲料量は14リットル、世界の女性たちのビール摂取量にくらべると決して高くはありません。
しかし、ビールを生産する分野では、イタリア女性の活躍はめざましいものがあります。

歴史を見ていくと、ビール醸造の分野では男女の区別はなかったも同然でした。
古代のメソポタミアやエジプトの遺跡からは、当時からビールが製造されていた痕跡が見つかっており、さらにエジプトにおいては「ニンカシ」というビールの女神まで存在していました。
ヨーロッパからアメリカ大陸に移民した人々によって、ビール醸造の技術はアメリカ大陸にも普及しますが、居酒屋でも家庭でもビールを製造していたのは当時は女性たちでした。
ヴァージニア州にある「ナショナル・ウーマンズ・ヒストリー・ミュージアム」には、1734年にメアリー・ライルという女性が父親からビール醸造工場を引き継いだという記録が残っています。
アメリカ合衆国第三代大統領トーマス・ジェファーソンのマーサも、非常に熱心にビールの醸造を家庭の中で行っていたことで有名です。

ところが、18世紀の後半になると、なぜかビール職人の肖像は、小麦の入った袋をかついだ筋骨たくましい男性像が定番として定着し、ビールを造る女性像は次第に世間から忘れられていきました。

しかし近年、女性たちはビール醸造業における本来の役割を取り戻しつつあります。
たとえば、オランダの大手ビール会社で技術部門の責任者となっているのはエレナ・ムルニゴッティ (Elena Murnigotti) というイタリア女性ですし、デンマークのビール醸造会社カールスバーグでかつてマーケティングを担当していたのもアンナ・マナゴー (Anna Manago`) というイタリア人でした。
また、イタリア国内のビール職人コンクールや醸造技術の伝承を目的としたビール組合ウニオンビッライ (Unionbirrai) には、アレッサンドラ・アグレスティーニ (Alessandra Agrestini) というモードの世界でマーケティングを担当する女性が参与しています。

ビール醸造会社の営業・マーケティング部門に女性たちが君臨するだけではなく、実際に現場で活躍する職人女性も増えてきました。
ベルギーのビール醸造の名門オルヴァルは、同名のトラピスト修道院で製造していることで有名です。この会社の技術部門の長は、アンヌ・フランソワーズ・パイパート (Anne-Francoise Pypaert )という女性です。
また、ミーガン・オリアリー・パリーシ (Megan O’Leary Parisi) という女性は、ボストン・ビール社のサミュエル・アダムスでその技量を発揮。そのほかにも、アメリカ各地のビール醸造業の分野で大活躍している女性です。

イタリア人女性では、ジャーダ・マリア・シミオーニ (Giada Maria Simioni) が、アメリカのビール会社モルソン・クアーズが開催するコンクールで入賞しています。
さらに、イタリアのウンブリア地方に伝えわる古いビールのレシピを復活させて高名となったファッブリカ・デッラ・ビッラ・ペルージア社の技術部門を率いているのは、ルアーナ・メオラ (Luana Meola) という女性。彼女は、ペルージア大学で醸造学を学び、同社に入社しました。入社当初は、ビール業界は男性たちの世界であったため、非常な苦労があったそうです。彼女が先達となり、ファッブリカ・デッラ・ビッラ・ペルージャ社の技術部には、多くの女性が参入してきました。そして、同社のビールはイタリアの「2016年度最優秀ビール」に選ばれたのです。

とはいえ、世界的に見てもビール業界で活躍する女性は男性の数に比べるとまだまだ少ないのが現状。
女性たちのビール業界での活躍をさらに活躍しようとアメリカで結成されたのが、「Pink Boots Society」です。毎年3月18日には、「ビッグ・ブッツ・ブリュー・デイ」を開催し、この分野で活躍が予想される女性たちに奨学金を授与しています。
さらに、2011年にはクラフトビール業界の重鎮サラ・バートン (Sara Barton) が、イギリスに女性ビール醸造者を助成するヴィーナス・プロジェクトを設立。翌年、彼女は英国の「ブリュワー・オブ・ザ・イヤー」を受賞していました。
このようにさまざまな女性が活躍するようになったビール業界ですが、まだまだ男性が多数派の業界では、「女性が好むのはフルーティーでアルコール度が控えめのビール」というイメージが払拭できないそうです。
それに対して、現場で活躍する女性の一人はこう反論しています。
「私たちは日々、常識から脱皮した新たなビールの開発に邁進しています。女性の中にも、
苦いビールやアルコール度が高いビールを好む人はとても多いのです。そして、女性は好奇心が旺盛で、新発売のビールはぜひ味わってみたいという人が大半なのです。逆に、男性のほうがよほどビールに関しては保守的で、新しいビールが発売されても見向きもせず、定番のビールを好む人が多いように思えます」。

そういえば、酒造りの神様をまつる京都の松尾神社にも、男性と女性の神の二体が秘仏として祀られていますね。
「アルコールの世界において女性は禁忌」という観念は、男性優位の時代に生まれた妄想なのかもしれません。

参照元
https://goo.gl/kO3u1P
https://goo.gl/59VDWb
pinkbootssociety.org
unionbirrai.it
birraperugia.it

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