電子レンジがなくてもおいしくいだだける、「曲げわっぱ」の弁当箱
- 2016/9/28
手足まで冷える季節になると、せっかく作ったお弁当も、おいしく感じられなくなってしまいます。電子レンジでチンすると、わずかな時間で、たしかに中身は温まりますが、どうも奥行きがない、のっぺりとした味に感じられませんか。文明の利器の効果で、冷たく、かたまったごはんよりも、ずっとマシになりましたが、まだまだ物足りない。そんな現代人におすすめしたいものがあります。
それは、「曲げわっぱ」の弁当箱。聞きなれない言葉ですが、「曲げわっぱ」というのは、杉や檜を薄くのばした板を曲げて作る容器のことです。日本人の手先の器用さをいかした伝統工芸でもあります。工芸品が、最新の機械よりも使い勝手が良いなんて、にわかに信じがたい話かもしれません。ただ、もしかしたら、三重県や長野県や秋田県出身の方なら、ご両親や、おじいさま、おばあさまのお家で見たことがあるかもしれませんね。外見は、素朴な木目の美しさを生かした木箱にすぎませんが、昔から寒い地方で受け継がれてきただけのことはありました。
「おにぎり」と、「卵焼き」、「きんぴらごぼう」といった、ごく平凡なおかずをそれぞれ、プラスチックの容器と、この「曲げわっぱ」と同じ条件で詰めて実験をしてみました。 さて、気になる結果ですが、前者は、わずか一時間ほどで、蓋一面に水滴がつき、三時間後には、冷めきった例の平坦な味に変わっていました。ところが、「曲げわっぱ」の弁当箱はちがいます。
まず、蓋をあけると、わずかな水滴がみとめられる程度でした。そして、肝心な「おにぎり」も、さすがに、作りたての温かさは残っていないものの、冷めた弁当特有の硬さはありません。温度がぬけただけで、「旨み」はじゅうぶんに残っていたのです。蓋につくはずの、水滴が少ないということは、それだけ素材の水分が残っているのかもしれません。まだ、電子レンジがない時代に、それも雪の多い地方で発達しただけのことはあります。これなら、朝に作った弁当を、昼に、畑仕事をする手を休めて食べても満足できそうですから。その上、薄い木で作られているため、軽いため、荷物が多い日でも負担になりません。
そして、逆に暑い季節は、食べ物が傷みにくくなる効果も知られています。一年を通じて、中に入れたものをおいしく、清潔にたもつ、たおやかな木製の弁当箱は、機械化が進んだ現代も重宝します。もちろん、弁当箱としてだけではなく、「お櫃」や、「菓子器」としても、とても優秀ですよ。