可愛い魔女は取説ナシ1

  • 2016/9/5

「基本的な星座のもつ性格はございます。
それから、季節も関係いたしますね。春夏秋冬、そしてその季節の節目といいますか・・・
季節から季節へ移り変わるところに生まれた方々は・・・」

大きなホワイトボードに書き込んでいるのは、占い師ヒナト・スバル、37歳。
占い教室で講師をしつつ、実際に占い師としても様々なイベントに出張している男性です。
教室は、ヒナト目当ての生徒達や、第一回目に必ずヒナトから渡される御守り欲しさに来たらしい人達で溢れていました。

「この、星座の分かれ目、境界線上というのがなかなか複雑な性格をもたらすのですが
・・・時間になりましたので、今回はこの辺で。
では、次回の日程ですがお渡ししたパンフレットをご覧頂いて、ご記入の上こちらにお渡し下さい。」

がやがやと皆が教室を出て行くと、入れ違うようにロングヘアに綺麗な濃いレッドをカラーリングした女性が入ってきて言いました。
「ヒナト、優秀な秘書から一言助言させていただくけど。
初回のみって言ってるのに、何度も初回に来ている生徒は、お断りするのが当然の権利よ。」
ヒナトは黒いスーツの前ボタンをはずすと、さっと脱いで言いました。
「初回って、お金も払うんだしね。それって本人の自由だとは思うけど。わかったよ。
ああ、暑いな。確か今日は、カズネ君の誕生日だったね。
レストラン予約してあるから行こうか~!」

平織 和音(ひらおり かずね)はヒナトの秘書兼事務員、つまり非常に有能なパートナーでした。
ヒナトの学んだ占術の先生の、お嬢さんであり、今では将来結婚するのではと言われる仲になっていました。
ただヒナトは結婚願望が希薄で、それが先生にとっても悩みの種であった訳ですが、もうひとつ、重大な問題があったのです。

「ママ、またヒナトと一緒なの?」

教室のあるビルのエレベーターホールで待っていた女の子が、ぶーたれた顔で言いました。
「ママの誕生日なのに!」
平織 綾那(ひらおり あやな)は、今日はおしゃれなレース使いの襟のついたワンピース姿で母親の腕にぶら下がるようにくっついてきました。
「お嬢様、レストランをご予約致しましたが、いかがですか?」
「ヒナト嫌い!」
カズネは娘に笑いかけました。
「じゃあ、アヤナとふたりで家でお食事しようか?」
とたんにもじもじするアヤナ。
「イタリアンレストランは、美味しいパスタ料理とステーキなんだけど。」
アヤナは母親の顔を見上げてしぶしぶ言いました。
「ママ、今日だけレストランでもいいよ。」

レストランの予約席で、ワインを乾杯しながら誕生日のお祝いをする3人でした。
「40歳の誕生日おめでとう。」
「ありがとう、ヒナト。アヤナも乾杯、ね。」
「ママ、あんまりお酒呑まないでね。」
「わかったわ。」

ヒナトはカズネとアヤナにプレゼントを用意していました。
「これ、ふたりに御守り。それと、カズネにはこれも。」
小さな細長い箱の中には、華奢な腕時計が入っていました。
アヤナの御守りは布でできた小さな可愛い魔女のストラップでした。
「アヤナに似てるわね。良かったわね、アヤナ。ありがとう、は?」

アヤナはその人形をぎゅっと握ると、小さな声で言いました。
「ありがとう。」
「どういたしまして。
それより、カズネ。
アヤナは、10歳になったんだよね?
そろそろ占いを教えてあげたいんだけど、いいよね?」

カズネは驚いてヒナトを見ました。
しかしその黒い瞳にはなんの迷いもなかったのでした。

・・・新シリーズ、「可愛い魔女は取説ナシ!」
占い師ヒナトと、カズネとアヤナの物語です。
では、またどうぞお楽しみ下さい。

・・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・

(このお話は、全てフィクションであり、実在の人物・団体等のことではございません。)

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