最近議論される「新自由主義」について解説
- 2015/7/22
新自由主義とは
2014年は安倍政権によって、多くの経済政策が行なわれました。その政策が良い悪いという評価はなかなかできませんが、安倍首相に対する批判の一つに「新自由主義的な政策を行なっている」というものがあります。1980年代以降盛んになった新自由主義ですが、それはどのような思想なのでしょうか。世界の経済にはどのような影響をもたらしているのでしょうか。この新自由主義という視点を持てば、海外・国内の政策の内容や影響などがすっきり理解できるようになります。今回は新自由主義の概要についてご紹介します。
新自由主義とは、一言でいうと「小さな政府を目指す思想」のことです。政府の行なう社会保障の縮小、市場における規制の撤廃、企業の競争を重視する市場原理主義などを特徴としています。政府の役割を最小限にして、その役割の多くを民営化し、企業の力を強めることで経済を発展させようという考えかたです。
しかし新自由主義が台頭したのはここ30年ほどのことで、それ以前はむしろ「大きな政府」を目指した政策が行なわれていました。戦後、先進国は市場を政府によって管理し、失業保険や年金、医療制度などの社会保障を拡充、またインフラ整備などの公共事業を押し進めて経済を発展させ、貧困層にも富を分配しようとしていました。結果的に1970年ぐらいまでは現在よりも格差の小さな社会を実現していました。しかしながら、1970年代に入ってからは政府の財政赤字が問題化したり、石油危機をきっかけに経済成長が鈍化したりしたことで、大きな政府に対する批判が起こるようになりました。
そこで生まれたのが新自由主義という思想です。アメリカではレーガン、イギリスではサッチャー、日本では中曽根総理によって新自由主義的な政策が押し進められました。その内容は鉄道や資源関連、航空産業などの国営企業の民営化、労働市場の規制撤廃、社会保障制度の改変などです。このような政策によって、世界の先進国の経済は市場主義的な色合いが強い弱肉強食的なものになり、格差が拡大する原因となりました。
新自由主義の問題点
日本で新自由主義的な政策を行なったのは中曽根政権や小泉政権です。特に小泉政権では郵政民営化など「構造改革」が強く主張されていたため、覚えている人も多いでしょう。そして安倍政権も新自由主義的な政策を進めています。
例えば労働市場の改革や法人税の減税などです。労働市場は、世界標準に合わせて競争力を高めるという名目で、非正規労働を増加させたり成果報酬性が導入されたりしています。しかしこれまでの労働市場の改革では、派遣労働者やワーキングプアが問題化し、正社員は仕事量が増えることで過労死が問題になりました。今回も法人税は減税される予定ですが、実際には外形標準課税の拡大などでこれまでに制限されていた中小企業、赤字企業への課税は大きくなり、負担が軽くなるのは大企業だけだとも言われています。
このような政策が進められたらどうなるでしょうか。労働者の社会的地位は低下し、より弱い立場へ追いやられ企業は低賃金で労働者を使って利益を上げ、大企業は中小企業や赤字企業の犠牲の上でどんどん肥大していく、という結果にもなりかねません。市場主義の立場から考えれば、このようにして力のない企業や労働者が淘汰されることでより効率的な経済に発展することになるかもしれません。しかし社会の格差は拡大し、先進国の中では格差が少ないと言われる日本も、今後は貧困層が多くなっていくかもしれません。
資本主義というシステムは万能ではなく、欠陥もあります。その欠陥を補うものとして政府が存在するのですが、過剰な構造改革は政府による調整を無効にしてしまいかねません。新自由主義については、さまざまな議論が行なわれています。肯定派、反対派それぞれの意見をよく知った上で、自分なりに検討してみることをおすすめします。