今さら聞けない「TPP」ってどういうもの?
- 2015/4/28
TPPとは
ここ数年新聞やTVのニュースをにぎわせている「TPP」ですが、これがどういう協定なのか、どういう影響を持つものなのか、全体像を説明できる人は少ないのではないでしょうか。TPPについて、その全体像を知らなければ、具体的な一部の詳細だけを知っていてもその知識を役立てることができません。今回はTPPとはどういうものなのか、あらためて考えてみましょう。
TPPとは、正式には環太平洋戦略的経済連携協定と言います。協定に参加する国は、関税の撤廃とルールや制度の統一が課され、国境を超えてヒト・モノ・カネが自由に行き来できるようにし、互いに経済を活性化することが目指されます。現在の参加国はアメリカ、シンガポール、メキシコ、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ、カナダ、ペルー、マレーシア、ベトナム、日本です。
TPP参加国の間では輸入が無関税になり、これまで貿易や企業活動、労働者の移動などの障害となってきた様々な規制や制度の違いが整備されるため、単純に考えればいいことのように思えます。しかし事情をもっと複雑なのです。
TPPのデメリット
全てのものが関税撤廃されれば、ある問題が発生します。この問題は「比較優位」という概念を知るとすぐに理解できます。例えばA国の自動車産業とB国の自動車産業を比べた場合、A国の方が強い競争力を持っているとします。これを比較優位と言いますが、A国とB国の間で関税が撤廃され、完全に貿易が自由化されるとA国の安くて高性能の自動車ばかりが売れてB国の自動車は売れなくなってしまいます。そうなるとB国の自動車産業は自然に衰退していくでしょう。
TPPの場合は12カ国の間で結ばれることになっていますが、それぞれの国の経済のレベルや産業の構造は当然大きく異なっています。その中でもアメリカは多くの産業分野で他国に対して比較優位を持っているため、自由貿易のメリットを大きく享受できます。しかし、例えば日本がアメリカの農産物を自由に輸入するようになると、安いアメリカの農産物ばかりが消費されるようになり、日本の農業は衰退してしまいます。
それぞれの国が得意な産業に特化していくことになるならいいのではないか?と思われる方も多いかもしれません。しかし、例えば日米関係が悪化したときに、食糧輸入の大半をアメリカに頼っていたら、アメリカの要求を飲まざるを得なくなる、という状況にも発展しかねません。これを食糧安全保障と言いますが、例え経済理論上では貿易を完全自由化する方が良かったとしても、一部の産業を自国内で育て、保有しておくことは必要なことなのです。これは食糧以外のあらゆる分野に関して言えることです。TPPは非常に高いレベルでの経済協力を目指した協定であるため、これまでのように特定の分野だけ協定から除外するという措置がとりにくくなっています。これが交渉が難航している原因にもなっています。
今後の交渉はどうなるか
TPPは他にもアメリカの中国に対する牽制、南シナ海の航路の確保、市場の開放による自国製品の売り込みなど多くの利害が複雑にからみ合う場となっています。とくにアメリカは自由貿易・市場主義というイデオロギーを他国に押しつけ、それを大義名分にして自国に有利なように協定を結ぼうとしていると批判されることもあります。このような批判は一面的であり正しいものだとは言えませんが、アメリカにそのような思惑がまったくないとも言えないでしょう。
これからも、特に日米間での交渉が難航していくことが予想されますが、あまり交渉が長期化しても他国から批判されます。そのため互いの利害がおさまる妥協点を探る交渉となっていくでしょう。少しでも国内産業に打撃が少なくなるように調整してほしいものですね。興味をもった方は外務省などの政府のサイトや、その他解説サイトを調べてみてはいかがでしょうか。