本当に女性に読んで欲しい本2冊

  • 2015/6/3
本

 女性のための本は巷に溢れています。女性のための○○、素敵な女性になる○○などなど、大きな書店に行けば専用の本棚があります。どれも確かに女性の役に立つ本だと思いますが、ここでおすすめする本はちょっと意味が違います。これからご紹介する2冊を読んだからといって、実生活で役に立つわけではありません。けれど図書館で借りてでも、是非読んで欲しい2冊なのです。

○『祖母、私の明治』 志賀かう子著
 昭和10年に生まれた著者は、7歳の時に母を亡くします。兄と2人、当時62歳の母方の祖母にひきとられ、祖母が92歳の天寿を全うするまでの30年間を共にすごします。祖母の志賀ミエは当時としては珍しい女性開業医でした。貧しい士族の家に生まれ、「洗うほどの赤貧、本当の貧乏」を経験して育ちます。けれど貧しさは志賀家の子ども達を損なうことなく、誇り高く明治大正の世を進んでいきます。
ミエは幼い孫2人を養育することになった時、母親がないことで孫を甘やかすまいと心に誓います。当時の62歳は十分に老齢でした。自分が死んだあと、誰がこの幼い子達の世話をするのか。そんな気持ちが、深い愛情とともに厳しい躾となって著者に降り注ぎます。日常の立ち振る舞い、家事の挙措動作、人としての誇り、そんな明治のすべてが著者に伝えられました。
戦争を挟んだ当時の世相も、ミエの生きてきた道筋も、現代では考えられないようなことが多々あります。けれどすべてを背負ってなおかつ凛としたたたずまいのこの明治の祖母の姿は、女性ならば誰もが胸を打たれずにはいられません。このエッセイは著者の初めての作品であり、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しました。若い頃にこの本に出会えた事を、僥倖であったと常々思っています。

○『洟をたらした神』 吉野せい著
 こちらも別の意味で深い生き方をした女性の作品です。著者は明治32年に当時としてはかなり裕福な家に生まれます。小学校の教員を2年勤めたのち、詩人の吉野義也と結婚し、菊竹山(現福島県いわき市)の開拓農民となります。そこにあったのは現代では想像もつかない貧しさとの闘いの毎日でした。
 そんな苦闘の日々もいつしか穏やかになっていくのですが、著者は夫を亡くしてしまいます。若い頃文学に親しみ、山村暮鳥とも交流のあった著者は、農民生活の間ほとんど「書く」ということをしていませんでした。詩人の草野心平に勧められ、この作品を出版します。そしてその年の大宅壮一ノンフィクション賞と田村俊子賞の2つを受賞します。この時著者は76歳でした。
 現代の日本は豊かになりすぎていろいろな物を見失っているという意見を聞くことがあります。ならば貧しければいいのかと言えば、決してそうではないでしょう。貧しさの中で己を見失わない人は、豊かさの中でも見失うことはないのではないでしょうか。誰もが自分らしさを求める現代に、76歳で本を書き、賞を得た女性がいたということを知って欲しい。そして今を生きることの参考にして欲しいと思うのです。

 いかがでしょうか。たった2冊ですが、ベスト・オブ・2冊でもあります。かなり昔の本で今では手に入りにくいものですが、図書館で借りて読む価値が十二分にある2冊だと、自信を持っておすすめできます。お時間がある時にどうぞ手にとってください。

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