しなやかに、したたかに、京劇の名女形、「梅蘭芳」に学ぶ処世術

  • 2015/10/13

日本も、中国も、「梅蘭芳」と書いて「メイランファン」と読みます。「ばいらんほう」とは、いわないのです。
 「毛沢東」は、日本では「もうたくとう」と発音され、決して、中国語読みの「マオ・ズエートン」とは呼ばれないのに。
 あの、文化大革命を巻き起こした立役者よりも、いち京劇役者でしかないはずの人物が、これだけ有名になるとは考えがたいもの。
 ところが、二十世紀の大スター梅蘭芳は、二十一世紀の今日も世界中から賞賛され続けています。いったい、その秘訣は、どこにあるのでしょうか。
 
 梅蘭芳(一八九四~一九六一)は中国の京劇の女形でした。
 それは、例えるとするならば、敗戦後の日本で歌姫として君臨した「美空ひばり」のような存在でしょうか。国中が、彼の歌声に酔いしれ、その美しい舞い姿に魅了されました。
 六十八年の生涯にふたりの妻を娶り、ほかにも名女優とのロマンスも語り継がれるなど、充実した生涯を送ります。
 ところが、大スターになるまでの道のりは、なだらかな一本道ではありませんでした。

 蘭芳は、旧社会で、一段低い職業として蔑まれる「役者」の家に生まれました。
 八歳から京劇の訓練を受けるようになりますが、その血筋とは裏腹に、物覚えが悪く、表情も暗く、かけらほどのスター性も感じられるものではありません。

 しかし、彼はひそかな努力を重ねます。
 兄弟弟子が「イー」と発声練習をしているそばで、「アー」と声を出し続けました。「イ」の口だと、楽に高音が歌えますが、「ア」だとそうはいきません。あえて、難しい「ア」の口跡で特訓することにより、京劇向きの歌唱法をものにしたのです。
 
 また、修行中には、男性相手の接客業をさせられることもありました。薄化粧をして、宴席に出て、お酌をし、客がのぞめば、そのあともー。

 そんな辛い経験から、彼はスターになってしばらくの間、個人的に誰かと会うことは控えていました。もちろん、ホモ疑惑のスキャンダルを恐れて。
 しかし、蘭芳は、元来がおおらかでおだやかな性格。その上、芸の向上に熱心で、京劇の問題点をあらためながら、新しい芝居を作り出せないかものかと、日々、考えます。
 そんな頃、ヨーロッパの芸術に造詣が深い「斉如山」の講演をきき、大いに感銘を受けます。それからしばらくして、二人は手紙のやりとりを重ねるようになりました。
 古い形式にこだわらず、的確に斉のアドバイスをとりいれ、彼はますます人気と実力をつけていくのです。
 そして、斉如山がシナリオを書き、梅蘭芳が演じるという最強のコンビがついに誕生します。

 風が吹けば、枝がしなる柳のように「しなやか」でありながら、みずからの軸は崩さない「したたかさ」をあわせもつ梅蘭芳。誰かを傷つけたり、裏切ったりするのではなく、京劇と、そして、己自身と真っ向から向き合い、歴史に残る名優になっていったのです。

参考文献
「梅蘭芳 世界を虜にした男」加藤徹 ビジネス社 二〇〇九年三月

関連記事

ライター体験レポート

  1. ●高濃度に配合された噂の商品「メディキュアプラセンタドリンク」を購入してみた! 年齢とともに肌トラ…
  2. 肌トラブルを解決してくれる新しい発想の「バブルジェル」 25歳を過ぎてから化粧のノリが悪くなり、旦…

おすすめ記事

  1. 京都・寺町通にある「プティ・タ・プティ」というお店。 建物は伝統的な京町家、でもウインドウを覗けば…
  2. 「餃子」といえば、レトルト食品のパックを買ってくるもの。あるいは、ラーメンと一緒に注文するもの。中華…
  3. 名古屋のモーニングセット
    旅行先で訪れたいカフェ、今回は名古屋編です。 ちょっと狭い地域でピンポイントにリストアップしてみま…
  4. 洋服を選ぶ女性
    自分のファッションを振り返ってみて「なんだか変わり映えしないな・・・。」なんて感じたりしていませんか…
  5. 口紅
    デパートのコスメ・ティックカウンターに新色のルージュが並びはじめると、それだけで季節のうつりかわりを…
  6. ビーチを歩くカップル
    今回はカップル限定と言うことで、俗に言う非リアの私は夢と妄想を抱きながらオススメをして行きたいと思い…
  7. サラート
    今回はムスリムのお祈り(サラート)と断食(ラマダン)についてお話したいと思います。 ムスリムの…
  8. Suica
    もちろん、駅でsuicaの発売機やチャージ用機器が設置してあるところではできますよ。 ~~ 注…
  9. 東山動植物園は愛知県名古屋市にあります。市営の動植物公園で「名古屋市東山公園 動植物園」が正式名称で…
  10. 運命
    みなさんは「運命の人」を信じますか? 私は運命論者でもなく、あまりそういったことに興味がなかっ…

カテゴリー

ページ上部へ戻る