気分は姫君様?職人が作る柘植の櫛

  • 2016/8/26
柘植の櫛

いくつもの工程をかさねて、熟練した職人が作り出す工芸品。それは、繊細で美しく、日本人の手先の器用さや文化が凝縮している技の結晶ともいえるでしょう。機械で安易に生産できる工業製品にはけっしてない、おごそかで緻密な日本の伝統工芸は「美術館」や「博物館」で観賞するもの。たとえ手に入れられたとしても、盆と正月だけの「床の間の飾り」と思われている方が少なくありません。

たしかに、人間国宝をはじめとする一部の作家の作品は、かなりお値段も張りますし敷居が高いのも事実です。けれども、柘植櫛や化粧筆といった小物類を選ぶと、お手頃な価格で手に入れられるものもあり、それらは、日頃の単調な日常生活に色彩をあたえる、素敵な小道具として重宝しますよ。とくに、柘植の櫛は静電気がおきにくく、使い込むうちに表面がつややかな飴色に変化してきます。手に馴染み、持ちやすく折れにくいので、大切にすれば百年以上も使えるかもしれません。

昭和初期までは、日本髪を美しくたもつための女性の必需品として、どこの家にも数本ありました。戦後は、舞妓さんやお相撲さんが髷を結うときに使うのが一般的になり、あまりみかけなくなってしまいました。しかし木の櫛で、髪をくしけずるとキューテクルが整いしっとりまとまるので、美意識の高い女性の間でひそかに人気を集めていたのです。木櫛で実際に、髪をとくと昔のお姫様になったような贅沢な気分にひたれますよ。

いちがいに柘植櫛といっても、大ぶりのものから、鞄や化粧ポーチにしまえるこぶりの櫛までたくさんあります。歌麿の版画に登場する女性が手にするような、三日月形の櫛は、まっすぐに髪の分け目をつけるときに便利です。また最近では、若い方向けに柘植素材のブラシもみかけます。ただどれも、天然の木であるため水洗いはできません。お手入れ方法としては、いらない歯ブラシで櫛の目を掃除した後で、軽く椿油を沁みこませておくとよいでしょう。

そして購入方法は、デパートの「匠の技展」や京都や薩摩の物産展がおすすめです。初心者にもわかりやすい説明がきけますし、髪質や用途にあわせて店員さんに相談できるので、電車の待ち時間に気軽に行っても。また、電話帳やインターネットで、職人さんがかまえている工房を探して直接たずねる方法もあります。ただ、こちらは買う意志がかたまっていないと少し息苦しいかもしれません。けれど実際に櫛を作る現場を見られる場合が多いので良い記念になります。

美術館の硝子ケースの内側にあるような工芸品を普段使いする。大事にして、こどもに、孫に受け継いでいく、そんな豊穣のこころを忘れたくありません。

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